「それで、偶然通りかかった、なんてわけではないわよね?」
「ええもちろん会いにきたの。のビブルカードを辿ってね」


一枚の紙を胸元から取り出したアリスは、ヒラヒラとその紙を振って主張して見せる。
するとおもむろに、その紙を彼女の背後からスルリと取り去ったローは瞬時に何食わぬ顔でビリビリに細かく破り風に流してみせた。
一瞬の出来事に頭がついていかず、固まってしまったとアリスだったが、はっと気を取り直したはローの胸ぐらを両手で掴み、アリスはワナワナと震え出した。


「い、い、い……いいいいやあああああああ!!何するのこの鬼畜外科医いいい!!!」
「ちょっとローいくらなんでも酷いわよ!?」
「てめぇこそいつの間に渡してやがった」
「私のものをどうしようが貴方に逐一報告する必要はなくてよ!」
「ならこれからは必要があると覚えておけ」
「馬鹿仰い!」


は胸ぐらを掴む手を乱暴に離し、アリスに駆け寄ると、彼女を抱きしめ頭を撫でる。
すぐさまを抱きしめ返したアリスは、肩越しにニヤリと含みのある笑みをローに向けて見せる。そんな彼女の反応に当然の如くローの額には青筋が浮かんでいた。


「大丈夫、また後で上げましてよ」
「絶対よ?」
「ええ、もちろん」
「だからやるなっつってんだろ」
「あら、やるな、とは言ってないわよね?」
「今言った」
「貴方ね…」


そんな会話をしつつも未だ抱きついたまま離れない二人をローは引き剥がし、またしても同じ事が繰り返されない様にと、の腰に腕を回した。


「本題に戻るぞ。何しに来やがったルーン屋」
「誰のせいで脱線したと思ってまして?…でも、私も気になるわ、アリス」
「うっふふふふ、そろそろが私の血を恋しがってるんじゃないかな、と思って」


語尾にハートが付きそうな、甘ったるい猫なで声で、掌を頬に当て体をくねらすアリスに、は苦笑を漏らす。


「つまりわざわざ捕食されに来た訳か。なら全部抜いてやる。、注射器持ってこい」
「嫌でしてよ」
「ちょっとそれじゃなんの意味もないじゃない!それにいいの?懇意にしてる情報屋始末しちゃって」
「お前が勝手に売りに来てるだけだろ」


またしても一触即発と言わんばかりに火花を散らすアリスとローの間に挟まれたは、幼少期から知る二人がある種仲良く見える光景に、どこか微笑まし気に目を細めた。
場違いにもほんの少し笑むに、アリスは目を丸くし、彼女の目線を追う様にしての顔を見たローは呆れた様にため息をついた。
事の発端たる彼女がこの様な、まるで第三者の様な反応を示すと、いがみ合うのが馬鹿らしくなってしまう。そうして収まる冷戦は、彼女の計算なのか否なのか。同じ疑問が頭を過るローとアリスは、ただ微笑むをジッと見つめた。


「何?二人して」
「何でもねぇよ」
「相変わらずって何考えてるかわかんないわ…」


アリスの言葉には、そんな事ないわよ。と含みのある笑みへとその顔を変貌させるのだから、周囲の人間からしてみると、余計にたちが悪いのだ。


「でも、良いわねぇミステリアス。私にピッタリ」
「自分で言うな」
「でもそんなが私は大好きよ」


屈託のない満面の笑みで、アリスはの両手を取り胸の前で握りしめる。
は一度アリスに微笑みかけてから、隣に立つローの顔を目だけを動かし見やった。またしてもその顔には何かをたくらむ含みのある笑みが浮かべられている。


「貴方は言ってはくれないのかしら?そんな私が好きだとか何とか」


ニヤニヤと茶化すようなの面持ちと言葉に、ローは赤ら様に嫌そうに眉を顰めたが、ふと何かを思い至ったかのように真顔になると、の耳元に唇を寄せると、彼女にしか聞こえないようにぽそぽそと囁き出した。
するとピタリと石のように固まったは、みるみるうちにその頬を紅に染め上げ目を見開き、いてもたってもいられないといわんばかりにアリスに捕まれた腕をほどき、ローの肩を押し返した。
しかしそれでも負けじとローはまた肩を抱き寄せニヤリと悪どい笑みを浮かべながらの耳元で囁き続けた。


「ちょ、ちょっと、何してるのよ、っていうか何を言ってるの!?何言われてるの!?いやそれよりやめなさいよ!やめ…!何か可哀想だからやめたげてえええええ!!」




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