自室に戻ったローは扉を閉じ、室内を見るともなしに目を向けた瞬間、ピタリと動きを止めた。
彼の目線の先にはソファに座るがいる。我が物顔で彼の部屋を使う彼女は今に始まった事ではない。しかしその手に一冊の本を持ち、ただ静かに目の動きは文字を追っている。普通ならば何気ないその行動がローの動きを止めさせた。
「お前が読書、か?」
「それ失礼じゃなくて?」
言葉だけを返すは相変わらずその本から目を離そうとしない。
いったいそんなにも彼女を惹きつけるその本はいったいどういったのもなのか。気になったローはソファに歩み寄り彼女の持つ本のタイトルを覗き見た。
「トランスマイグレーション?」
「最近巷で女の子に流行ってる恋愛小説よ。興味あって?」
「内容にはない。が、お前が読む動機には興味ある」
ページに栞を丁寧に挟んだは本を閉じた。
「うーん…買ったのは女の子に話し合わせるのに良いかしらって思ったのよ。流行りものは丁度いいもの」
「…………」
「でも読んでみたら案外面白かったわ。私もまだまだ乙女ね」
「自分でいうな」
「パートナーが否定するんじゃないわよ」
ふん、と一度鼻を鳴らしてからは本を開きまた読み進めようとするが、ローは彼女の手から本を取り上げ開いているページにさっと目を通す。
「何するの後ちょっとなのに!途中から読んだって分からないでしょう?」
「ああ、わからねぇ」
分かるつもりもなかった様子のローは、結局初めから読むこともせず、その本を机に投げ置いた。
「どんな話なんだ?」
「自分で読みなさいな」
「面倒だ」
数秒ローを白い目で見ただったが、はぁと小さくため息を吐いてから大まかな物語を語り出した。
主人公の天使は人間の男と愛し合った。
天使は男を愛するために羽をなくし堕天使となり、男は彼女のためだけに愛の言葉をつむぐ。
しかし彼らは結局結ばれないままに死に至る。
そして今度は人間として生まれ変わり、また巡り合う。
「だいいぃぶ大まかにこんな感じよ」
「くだらねぇ」
「言うと思った」
「だいたい女のやることに対して男の見返しがみあってなさすぎんだろ」
「男はまぁどうでもいいわ。主人公が健気で可愛いからいいの」
「お前な…」
呆れるローをよそには机に置かれた本を手に取り再び読み進めようと本を開こうとしたが、またしてもローに本を取り上げられ阻まれる。
「………。分かった。構ってあげましょう。こっちにおいでなさい」
不服そうな表情を浮かべつつも腕を広げただったか、ローは彼女の腕に抱かれようとはしなかった。
その様子を見ては早々に腕を下ろし、また話しを本へと戻す。
「転成なんてこと、本当にあるのかしらね。あればいいのに」
「…何故だ?」
「また貴方に会えるってことじゃなくて?」
「………、俺は御免だな」
意外な答えだったといわんばかりにキョトンと目を見開いたは、ジッとローを見つめ次の言葉を待つ。
「それはもう、おれじゃねぇ。」
「記憶があっても?」
「記憶と経験は違う」
明らかに機嫌を悪くして、苛立った声でローはそう言い、何か言葉を続けるために口を開いたが、少し躊躇った後結局紡ぐことなくその口を閉ざした。
そしてまだこの部屋に戻って間もないにも関わらず、早足に扉をくぐった。
「な、…。何かしらこの来世まで一緒に居たくないって言われた気分…」
暫く呆然と扉を見つめていただったが、期待する影は現れないだろうと一つため息を小さく吐き、また本を手にとった。
振られた想いの昇華先
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