それはローが読み終わった本を本棚に戻そうと、自室のソファを立ち上がった瞬間の出来事だった。
突如にして先ほどまで隣に座っていたが、彼にまるで突進するかの如く、背後からローの腰に抱きついた。
「…どうした?」
「………」
何も答えない上に、背後にいるため表情を伺うこともできないに、少し戸惑いを感じつつ、ローは腰に回されているの腕にそっと手を添えた。
「?」
「…約十五センチ」
「は?」
ローの背中からほぼ零距離で呟かれた謎の寸法に、思わず疑問の声を漏らす。
シリアスな場面ではないと理解したローは、彼女の腕を離し振り返った。
そうすれば悔しそうに顔を歪めるの表情が目に入る。
「いったい何の話だ?」
「身長差!私の厚底のブーツ引いてのローとの身長差!約十五センチもあるのよ!?」
「それはお前が小さ」
「うるさいお黙りそれ以上は許さなくてよ!私の唯一のコンプレックスを…!」
悔し気にぐっと拳を握るに、ローはわざとらしくため息を一つ吐く。
「大体女にしちゃ別に低くはねぇだろ」
「あら、理想の男女の身長差は十センチらしいわよ。それでも下らなくて?」
「一般論を気にするタチだったか?」
「まあ気にしないけれど」
握っていた拳を離し肩を竦め、何事もなかったかのようにまたソファにドサリと腰をおろしたに、若干の呆れを覚えつつ、ローは立ち上がった本題であった手に持った本を本棚に戻すと、もう一度彼女の隣へと腰掛けた。
「で、急にそのコンプレックスを話題に出してどうした」
「身長差、貴方と頭一つ分くらい違うでしょう?」
「そのブーツ履いてればな」
「余計な一言どうもありがと。それで、貴方が立っているときに食事がしづらい。というか不意打ちが狙えないわ」
「……ならおれには都合が良いようだな」
「縮みなさい後五センチくらい」
「馬鹿言うな」
もう一度ため息を吐こうとした途端、ついとがローに顔を真近くに寄せる。その距離わずか二センチ程だった。
「たまにどうしても無性に奪いたくなるときがあるの」
「……」
「食欲とか合意も関係なくただただ奪いたいの」
どうしてかしらね。と小さく呟き、は目を伏せローにしなだれかかると、首元に顔を埋めた。そして一度首筋を舌でなぞると、八重歯を彼の肌に突き立てた。
「…っ」
一瞬ローを襲った痛みに顔を顰めたが、その直後に普段なら来るはずの苛まれる様な感覚が、いつまでも来ないことを不思議に思っい、首筋に咬みつく彼女に声をかけようとしたが、その直前に彼女は首筋から顔を離した。
「うーんやっぱこうじゃないわ」
「………気まぐれで人の首に穴開けんじゃねぇよ」
「あら、私だから許されるでしょう?」
肯定するかの様に黙り込んだローを見てはクスリと微笑む。
そんな彼女を見つめつつ僅かに痛む首筋を、ローは揉む様に撫でながら、彼女に問いかける。
「十センチは男女の理想の身長差だが、十五センチは何か知っているか?」
「?…何でして?」
「それはな…」
の耳元の髪をさらりと耳にかけると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ローは彼女に低く艶のある声で囁きかけた。
傷つく程に愛の証
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