不寝番以外の誰もが寝静まった真夜中。無遠慮にも音をたて開け放たれた船長室に、これもまた無遠慮に入ったこの船紅一点のは、はたまた無遠慮にこの船とこの部屋の主たるローが眠っているベッドの掛け布団をひったくった。
「起きなさいなロー」
「お前……。寝かせろ」
「ダメ起きなさい。さぁ甲板に行くわよ!」
「…行って来い」
「お姫様抱っこされて連れていかれるという屈辱を味わいないなら、どうぞ寝てなさい」
その言葉とほぼ同時にローの背に伸ばされた手に、彼は断念して億劫そうにしつつもベッドから降り立った。
寝ぼけと不機嫌を携えたローは、に手を引かれるがままに、甲板へと出た。
するとそこには、輝く満点の星空と、幾つもの流れ星という光景が彼等の目の前に広がった。止む事を知らない流星群が、キラキラと夜空に神秘的な輝きを放ち、とどまる事を知らず流れて行く。
圧巻という言葉がよく似合うその光景に、流石のローもつい先ほどまでの眠気と不機嫌を他所に、甲板の真ん中まで移動しつつ彼女と共にその光景に見入った。
「すごいでしょう?」
「そう、だな…」
「ここまでのはなかなかないでしょう?」
流れる星を掴もうとするかの様に、はグッと手を上げ夜空を見上げた。
「一つくらい落ちて来ないかしら」
「そうなればお前は死なねえだろうが、おれは死ぬぞ」
「あらロマンの欠片もないこと」
ローがその場に腰を下ろしたのに倣い、も彼に身を寄せるように彼の隣に腰掛けた。
「流れる間に三回願い事を唱えれば、願い事を叶えられる、だったかしら」
「よく聞く迷信だな」
「またロマンのない…。いいわ。私が貴方の分も願って上げてよ」
そう言うとは、祈る様に両手の指を絡め、口の中でブツブツと呟いた。
「…何を願った?」
「ローが好青年になって私に傅きますように」
「…………」
「冗談よ」
「笑えねぇし結局お前の願いじゃねぇか」
呆れたとばかりに呟いたローにがクスクスと微笑む。
それとほぼ同時に聞こえたバタバタと騒がしい幾つもの足音に、二人は後ろにある船内へと続く扉を見やる。すると勢いよく開け放たれた扉の向こうに、非常にテンションの高い船員たちが、甲板へとやってこようとしているのが目に入った。
「おおお!!これはすげぇ!って船長ともきてたのか!」
「二人っきりで楽しもうなんてそうは行かないぜ!」
「おい誰か酒持って来い!星見酒だ!」
口々に感嘆の言葉をする船員たちが、わらわらと甲板へ向かう足を早め、一様に空を見上げる。
そして酒とつまみを持って遅れて現れた一部の船員が到着したのを期に、ついには星見などとは名ばかりの宴が始まっていた。
「ふふ。さっきまで皆寝てたのに元気ね」
「そういう奴らだ」
「それもそうね」
盛り上がる船員たちと星空を微笑ましげに見つめるに、ローはもう一度問うた。
「それで、何を願った?」
「あら、そんなに気になる?」
「………」
「ふふ…。この旅が波瀾万丈でありますように、よ」
の答えに、意味が分かりかねる、といった風にローは眉根を少し寄せた。
そんなローを見て、またクスクスと笑ったは、もう一度目の前で行われている宴の様子を眺めた。
「人間の一生は短いもの。平穏なだけじゃ忘れてしまうわ。波乱に満ちて、一瞬一瞬を劇的に、それでいて大切にしましょう。皆と一緒に」
そう言った彼女は屈託のない微笑みをその整った顔に浮かべてみせた。
「おれどころかこの船全員の願いか」
「欲張りすぎたかしら?」
「いいや。貪欲でこそ」
「海賊。でしょう?」
そうして日の出まで止む事を知らない流星群を肴に、ハートの海賊団の宴会は続く。
求める想いは貪欲に
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