「何でして?」
「何でもねぇ」
「何よそれ」


船首にて地平線を眺めていたに、突然覆いかぶさる様にしてローは彼女を後ろから抱きしめた。
は感触だけでそれが誰かは分かったものの、彼女からは帽子で彼の顔を伺う事ができなければ、腹に回された刺青が入っているであろう腕も、そのたわわな胸によって見る事が叶わなかった。
ローとに挟まれた彼女の帽子のつばが気になっていた最中に、はローによって名前を呼ばれ、冒頭に至る。


「何度も言う様だけど、この帽子高いのよ?」
「何度も言う様だが、痛んだら買ってやる。…次はボンネットにするか」
「後ろにつばがないから?」
「あぁ。それに飛ぶ心配もなくなる」
「なんにしても却下。服に合わなくてよ」


そう言えば、ローはの長いスカートを、ほんの少し持ち上げた。
風にパタパタとたなびくスカートの裾と共に、ようやくの視界にローの刺青の入った手が入った。


「こっちも新調すりゃいい」
「まだ使えましてよ」
「だいたい、何の色気もなさすぎる」
「色味という意味で捉えてよろしくて?」
「いいや」
「…。兎に角却下」


スカートを掴んでいるローの手をピシリと軽く叩けば、意図を察したローはその手を放す。
そしてまた元の位置に戻った腕に、はそっと自分の手を添えた。


「うちの財政はそんなに緊迫しちゃいねぇぞ」
「ならもっと別のものが欲しくてよ。人員を増やすとかね、主に女の子」
「それこそ却下だな」
「皆も喜ぶわよきっと」
「海賊船に女は乗るべきじゃねぇ」
「じゃあ私はいったいなんなのよ」


はローの腕に添えていた手で彼の腕をギリっとつまんだ。


「痛てぇ」
「良かったわね貴方の感覚は正常よ」


最後に更に力を込めてからようやくは手を離した。しかし一応の罪悪感はあったらしく、自分が先ほどまでつまんでいた場所を軽くさすった。二、三度さすった後彼女が手を離した瞬間、今度はローが唐突に彼女の脇腹を擽りだした。


「な、ちょ、やめ…!ふ、ふふ…あは…!」
「お前の感覚も正常だ」
「やめなさいこんな…ふ…あ、あははは!」


相変わらずローの腕はに回されたままで、彼女は逃れる事もできず欄干を握ってただ悶えた。


「も、ロー!ろ…ふっふふ…!ふえ…」
「何だ、そんな妙な声を出して」
「お黙り、な…ふ…も、もうやめて…!」
「却下」


しばらくの間、宣言通りなかなか彼女から手を離さなかったローにより、笑わされ続けるの声が甲板に響いた。


「…ここ甲板だって分かってやってるのか?」
「諦めろ。空気に徹しろ」
「羨ましい…」



暫し戯れにお付き合い願います




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