島に上陸した初日の夜といえば、まず酒にありつく。夜といわす昼だろうとそれは、海賊には良くありのパターンだ。
ハートの海賊団の船員の殆どはどの島でも一つはあるような、ウェスタンバーへと足を運んでいた。

船番の交代で後々から酒場へと駆けつけたペンギンだったが、その酒場の周辺をうろうろと忙しなく銀糸の様な長い髪をたなびかせ歩く、ハートの海賊団紅一点であるの姿がまず目に入った。
訝しげにしつつも、ペンギンは彼女の元へと駆け寄った。


?」
「え?あぁペンギン…変なとこ見られたわね」


もう誰か来ると思ってなかった。とは苦笑しつつ足を止めた。


「入らないのか?」
「うーん、どうしましょう。入るにしても今は店員が外に出てこないから、入れないわ」


吸血鬼が建物に入るには、建物の持ち主に許可を得なければ入ることは出来ない。店に入るのにも彼女にとっては一苦労である。

ウェスタンドアの間から店内を盗み見る彼女の視線を追うように、ペンギンもドアの間から店内へと目を向けた。
賑やかな店内のその奥には、の想い人であり、ペンギン達の船長がそこにはいた。
オプションに女を侍らせて。


「…あー、えぇっと」
「怒っていなくてよ。あぁ…むしろここは怒った方がいいのかしら?」


自嘲するかのように呟いた彼女は、彼らから目は離さず話を続けた。


「何でかしら。本当に怒ってないの。きっと今ここで別れを告げられたって、船員としてサポートするだけの関係になれるわ。降りろと言われれば、流石に嫌だけどね」
…」
「たまに考えるの。ローには普通の人間の女の子といる方がいいんじゃないのかしら、こんな薄情な奴じゃなくてって。素直でローの言う事ちゃんと聞く娘。それで、相手にちゃんと依存する娘。男の人ってそういう娘好きでしょう?ていうか私が好き」
「おいおいおい…。まぁ…一概には言えねぇけどな」


帽子ごしに頭をかくペンギンを見てはクスリと微笑む。いつまでもドアの近くにいるのは迷惑だろうと、ペンギンは彼女を連れドアから少し離れバーの壁に背を預けた。もそれに習いペンギンのとなりに並ぶ。


の考えは全部船長優先だな」
「そうかしら?私がそう思うだけで本当に彼の為になるかは分からないもの」
「そうやって第三者目線にもなれるとこが、やっぱり船長優先だ」
「ふふ、可愛くないでしょ?」
「そうだな。それでいて可愛気がない、か?」
「いらない肯定の上に追加までどうもありがと。心に突き刺さるわ」


ひとしきり笑い合ったあと、ペンギンはふと気づいたようにに問いかける。


「そういや、何であんな挙動不信だったんだ?」
「あぁ、ローから女の子を横取りするべきか、何も知らないフリをするべきか、どっちの方がいいか悩んでたのよ」
「…船長を横取りじゃないんだな」
「私は全ての女の子の味方でしてよ」
「そういうとこ、本当お前らしいよ…」

「なら、何もしらないフリは間違いだったな」


突然聞こえた話題の人の声にとペンギンは、ギョッとして声がした方に勢いよく顔を向けた。
一瞬見えた薄い半円状の膜に、彼が能力を使いここに現れた事が分かった。


「もう一つ。ここでペンギンと二人きりになるのも間違いだ」
「あー…おれ酒場入るんで後はお二人でごゆっくり」


ペンギンがその場を後にし、ほんの少しの沈黙が訪れた。さっきまでの会話を聞かれていたと思うと、は若干気まずそうにしている。
そんなにローは肩を軽く抱き寄せた。


「で、お前はまだそんな事を考えてるのか」
「うーん、こればっかりは永遠の葛藤じゃないかしら」
「そこまで迷うのがおれには疑問だ」
「なら一緒に悩んでちょうだい。長い時間をかけて、二人で」
「……そうか、そう…だな」



躊躇う心を受け入れて







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