ゴーン、ゴーン、と重々しくも壮大な鐘の音が鳴る。街の中心にあるその鐘の音は、遠く離れた船着場までもよく聞こえた。
高くそびえ立つ建造物の最上部に取り付けられた鐘を、船尾の欄干に頬杖をつきながら、は忌々しげに据わった目で睨みつけていた。
「なんなのよこの島は…」
彼女が憎々しげに呟くのも、それもそのはず。その鐘のついた建造物とはが最も歓迎されない場所、教会である。
聖なる建造物が街の中心にそびえ立つその島に、当然の如くは上陸を頑なに断った。何を言っても「無理ダメ無理」の一点張りだ。
「神に頼るしかねぇんだろ。こんな時代だ」
一通り島の散策を終え、船に戻ったローがの隣に佇み、欄干に腕を預けた。
「こんな時代になったんだもの。神も仏も居はしなくてよ」
「その意見には同感だ」
「まぁ悪魔はここに居るけれ……ど…、いつ鳴り止むのよ煩いわね」
未だ鳴り止まない鐘の音に思わす苦言を漏らす。遠く離れているだけあり、会話に支障はないものの、幾ら何でも終始なり続けるその音をいつまでも聞き続けるのは、さすがに辟易した。
「結婚式だそうだ」
「?」
「島全体祭り状態だった。余程の有名人が今、式を上げてるらしい」
「へぇ…だからこんなに鳴らし続けてるのね」
毎日これじゃ住民から苦情出るわよね。とどうでも良さそうに呟いたは一つため息を零した。
「…ねぇ、ロー」
「あぁ」
「私が人間だった頃には、…人並みに人並みな女らしい夢があったのを、今思い出したわ」
「何だ?」
「神の御身に愛する人と永遠を約束すること」
「………」
「ベタでしょう?今では叶わない夢だけれど」
永遠を生きるに永遠を約束しては、必ずしも相手はその約束を守ることはできない。
遠くの鐘をぼんやりと眺めるに、ローは背中から彼女の腹に手を回し、軽く抱き寄せた。
も欄干から腕を離し、ローに背をもたれかけさせる。
「は何も約束しないでいい」
「?」
「だがおれの永遠はお前にくれてやる。神がいねぇならお前に約束してやるよ」
「あら…ふふ、約束は守ってね?」
影の重なった二人は潮風に吹かれながら、遠くの祝福の鐘の音に耳を傾けた。
誰でもなく誓うはあなたに
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