「ねぇロー…いいかしら?」
「………」
「ロー…?」

色気をふんだんに含ませた、甘えるようなの艶っぽい声が部屋に小さく響いた。
ローの胸元に手をそっと添え、上目遣いで情熱的に見つめるその姿は、まさに妖艶という言葉が相応しい。

対するローはというと、出来るだけ彼女を視界に入れない様にと、顔を明後日の方向に向けていた。その表情に普段の様な余裕は見受けられない。
そんな彼を見て、はクスリと笑みを漏らす。


「貴方もそろそろ限界じゃないかしら?」
「………」
「どうしてそんなに頑ななのかしら?ふふ…」


胸元から手をスルスルと首元へと這わせ、その首に腕を絡める。


「ローったら。口がきけなくなりましたの?」
「…確かにおれも限界だ」
「あら」
「だが


そこでようやくローはと目を合わせた。
そうすればここぞとばかりに、は花が綻び蕩ける様な至高の微笑みを彼へと向ける。
うっ、と一瞬に圧倒されかけたローだったが、額を片手で抑え、もう片方の手をの腰に回しながら、一つ大きなため息を吐いた。


「……。受け側に甘んじるのは嫌いだ」
「あなた……、そういう発想やめなくて?私は血が欲しいだけなんだから…」
「ならおれはお前の程の良い食料か?」
「そうは言ってなくてよ」


心外だわ。とほんの少し怒りへの字口になったを、ローは額を押さえていた手を彼女の膝の裏へ回し、横抱きにする。そしてベッドへと座らせ、彼女の前に傅くように跪いた。


「むくれるな。くれてやるよ」
「そう、ありがとう…」


口の端をすこし上げ、目の前に跪くローの首元に顔を埋めた。首筋を数度小さな舌で舐めた後、肌へと八重歯を突き立てた。


「…っ!」
「ん……」


が一つ喉を鳴らせば、ローは彼女を抱き寄せ、自らの顔を彼女の頭に擦り寄せる。
次第に息は荒くなり、彼女を抱き寄せるその腕にも力がこもる。
眉根を深く寄せたとき、はようやく行為を終えた。時間にしてわずか三秒の出来事だった。


「ご馳走様…」


食事の終わりの言葉が聞こえども、ローは彼女を離さなかった。
はローの背に腕を回し、宥める様に数度背中を軽く叩く。


「ありがと、ロー」
「……あぁ」
「やっぱりローが一番でしてよ。今までも、これから数百年数千年経ってもきっと忘れられないわ」
「そうか」


ローがそう呟いた瞬間、突如は背に柔らかい布団の感触を感じ、その瞳にはローと天井のみが映っている。つまり押し倒されている状態だ。


「…何?」
「血の味だけじゃねぇ。おれ自身も忘れるな」
「は…」
「今度はお前が受け止めろ」
「は!?」

そう言ってに顔を近づけたローは、彼女の唇に残った自分の血を、親指の腹で綺麗に拭い、見せつける様にニヤリと不敵な笑みをその顔に浮かべた。




この先何度でも思い出す



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