潜水深度約五百メートル。ハートの海賊団の潜水艇は現在海中を航海していた。
普段みる事の出来ない深海の姿を、は船長室の窓から、長らくボンヤリと眺めていた。
「そんなに興味を惹かれるものがあるのか?」
そう声をかけたローは、まだ窓の外を眺め続けるの隣に立ち、彼女と同じように窓の外を見やった。
「貴方は興味を惹かれない?普段はみる事が出来ないでしょう?」
「自分だけじゃな。だがこいつがある」
窓の縁をポンと叩いてからに不敵な笑みを浮かべてみせた。
「まぁそうね。昔はこんなものなかったもの…」
「…年寄りくせぇ」
「あら、どうやら本気で殴られたいようね?」
拳をグッと握りながらは満面の笑みを浮かべながらこめかみに青筋を立てた。
「まあ、見た目はおれより若いな。見た目は」
「フォローにならないフォローどうもありがと!念押ししなくてよろしくてよ!」
握った拳をローに突き出したが難なく避けられる。そうして深まる彼の不敵な笑みを見て、は不貞腐れたかのように頬を少し膨らませ、壁に背を預け腕を組んだ。
「もういいのか?」
「元々ただやる事がないから見ていただけですもの」
「そうか」
「…ねぇ、ロー」
ふと思い至ったようには先ほどまでのふくれっ面などなかったかのように、あっさり問うた。
「外見年齢を抜かすって、どういう心境?」
首を少し傾げ、上目遣いでローを見つめた。
一瞬考える素振りを見せたローは、と同じ様に、壁に背を預け腕を組み答える。
「身長を抜かしたときは、普通に喜んだ覚えがあるが…」
「あぁ…」
「外見年齢を抜かしたときはそうだな…、お前がここに居るのかどうか、疑った、か?」
「何それ」
「何処か別次元で生きている幻を見ている気がしていた」
「何その似合わないロマンチズム」
「うるせぇ」
クスクスと笑うをローは不満気な面持ちで彼女を見やった。円状の窓を挟み並ぶそんな彼に、は拳をトンと彼の組んでいる腕に当てた。
「居るわよ。ここに」
「あの頃じゃねぇんだ。分かってる」
「ふふ、そう」
「お前はどうなんだ。外見年齢を抜かされる心境は」
「そうねぇ…私の場合貴方に限らないけれど…」
うーん、と小さく唸りつつ、顎に手を当て言葉を探す様にほんの少し上を向く。
「虚無感、かしら」
「……」
「うーん、でも嬉しいって気持ちもあるのよ?難しいわね…」
自嘲する様な笑みを浮かべ、少しだけうつむく。
項垂れてしまった彼女の頭を、ローはポンポンと慰めるかのように数回なでた。
「別に悲視してる訳じゃないわ。ただ稀に、二十一より年を取った自分がどんな姿か、ちょっと気になるくらいよ。」
「気にしているし、おれと共に年を取りたかった。くらい言えないか?」
「ふふ、言えません。貴方も虚無感があるなら埋めてやるくらい言えませんの?」
「埋めてやるよ。溢れるくらいに」
うつむかせていた顔をあげれば、相変わらずのローの不敵な笑みが目に入り、もフッと小さく彼に微笑んで見せた。
寂しがる想いを埋め込んで
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