ある日の朝だった。
元来夜行性である吸血鬼も、人間と合わせて生活する場合はさすがに生活リズムを昼夜逆転させる。
遅くもなく早くもなく、船員たちの起床の平均でも起床するが、本日はなかなかその顔を見せずにいた。
気になるとはいえ、女性の、その上船長の女である彼女の寝室に足を踏み入れのは躊躇われる。
当然自主的にローが彼女の様子を見に行く事となった。
そして無遠慮に入った彼女の寝室には、クロゼットの前で座り込むの姿があった。
何事かと早足に彼女に近づけば、荒げた息の音が聞こえ、顔を覗けば普段白すぎる象牙色が赤みを帯びていた。
とっさにローはを横抱きにし、ベッドへと横たわらせ、診察器具を取りに一度部屋を後にした。
*
「三十七度五分…にしては高いな」
「平均より3度も上…?図り間違えてなく…ケホッ」
無理に起き上がろうとするを、ローは彼女の額を軽く押さえる。そうすれば力の出ない彼女はその場から動く事が出来なくなり、悔しそうに少し唸った。
「不屈の空想上の生き物がいいざまだな」
「屈辱だわ…」
「お前もちゃんとこの場で生きているんだな」
「当然でしょう」
「ある種安心したってことだ。悪い意味じゃねぇ」
「それはどうもありがと…ケホッ」
「診察しねぇでも分かるな。風邪だ」
せっかく持ってきた様々な診察器具には手をつけず、洗面器にいれた水を浸し絞った、ごく一般的な熱さましの為のタオルをの額に乗せた。
「内科は専門じゃねぇからな…次の島でちゃんと見てもらえ」
「それまでには治ってるわよ…多分。最悪、死んでから復活し」
言葉を最後まで言い終わる前に、ローから痛いほど睨みつけられ、思わず口を閉ざす。
「…む、無言の圧力やめて下さる?」
「次生き返かえる証明がどこにある?身体にガタが来ない証明もだ。もともと人間だったお前は、いつまでも不死身か?」
「あなたそんな事考えて…」
「」
真剣な顔つきで彼女の名前を呼んだローは、ベッドに横たわる彼女の顔の真横に手をつき、お互いの息遣いがわかるほどにその顔を近づけた。
「お前の命は俺のものだ。お前にだって渡さねぇ」
唇が触れないギリギリの距離で発したローの言葉を、は数度頭に反響させ、そして 無垢な少女のようにその顔を真っ赤に染め上げた。
そんなを見てローは不敵な笑みをその顔にたたえた。
「何だ、その初心な反応は」
「ち、ちが…ケホッ!熱が上がっただけ…ケホッ!ちょっと近い咳しにく…」
賢明に顔を逸らそうとするに、不敵な笑みをさらに深めたローは、彼女息を奪うように口づけた。
「…移っても看病して上げなくてよ?」
「そいつは残念だ。ここにいてやるこら、そろそろ寝ろ」
「わざわざ頼んでもないのにどうもありがと…」
憎まれ口を叩きながらも、はローの手をそっと握り目を瞑り、そんな彼女を見て彼はほんの少し顔を綻ばせた。
不意にときめくその言葉
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