「ああああ!もうっ!!」


食堂のカウンターの真ん中の席を陣取り、叫び声をあげ、時にカウンターをバン!と叩きつける音をさせている。このような癇癪持ち、それ以前に女性はハートの海賊団に一人しかいない。船内にいる船員たちは、あぁか…、と半ば諦め気味にその声を耳にしていた。


…叫んだって、どうにかなるもんじゃ…ないよ?」


余りにも叫び続けるに、痺れを切らしたというよりは、心配になったベポが彼女の隣に座りおずおずと宥めた。


「分かっていましてよ…でもね、それでも理不尽に苛立つことはやめれないのよもおおお!!」


そう声を荒げながら首を左右に振るう度に、うねりのない銀糸の様な長髪が散らばり、ベポにパサパサと少し当たった。


「しょうがないよ…日差しが強過ぎれば、帽子があってもは火傷しちゃうんだから…」
「言われなくも分かっ…!…貴方にあたると妙に罪悪感が湧くわね……」


今日び陽の光で消滅する吸血鬼はいなくなっているが、それでも日差しが強ければ簡単に火傷をする体質ではある。

島に辿り着くまでの航路の途中、気候が安定しだしたときに、次の島は夏島であることがわかった時点で、は目に見えて不機嫌だった。次の島には上陸出来ないどころか、船内から出ることすら叶わないからだ。
しばらくは周りに害をなすこともなかったが、島に辿り着き、ローが上陸した途端、この有様である。


「でもねベポ、一つ思い違いしてましてよ。上陸出来ないことよりも、ローが出て行く時のあの嫌味ったらしい顔が…ああもう腹が立つ…!」
「そこに怒ってたの!?」
「いかにも羨ましいだろ?みたいな顔してたのよ!?もうあの馬鹿…!」


そうしてまたバシバシと机を叩きだしたが、机がへこみはしないあたり手加減はしているようだった。
段々と音もちいさくなり、ただ机に突っ伏すだけとなったの頭を、ベポが肉球のついた大きな手で優しく撫でた。


「おー、女王様の癇癪も終わったか?」
「聞こえてましてよ、シャチ」
「お、起きてたのか…」


が落ち着いたのを見計らい、食堂へとやってきたシャチは、サングラスで目がほとんど見えないその顔を、引きつらせた。
だがは特に気にした風でもなく、机に突っ伏したままだったので、シャチもベポと逆側のの隣の席へと腰を下ろした。


「シャチ、は外に出れない事に怒ってるんじゃないんだって。キャプテンに置いてかれたからみたい」
「ベポ、言わなくていい事が世の中にはあるのよ?というよりニュアンスが違…」
「口が軽くてすいません…」
「打たれよわ!?」


思わず顔を上げたとシャチの、同時に入ったツッコミに、場が一度収まり、一瞬の沈黙が降りた。


「で、まぁなんだ。さっきまでのはご馳走様って事でいいのか?」
「残念ながら違ってよ」
「なんにしろ、が隣にいないんじゃ、きっと女達が船長放っておかないだろうなぁ」
「それの前で言う?」


ベポの言葉にハッとしたシャチは、隣に座るに恐る恐る顔を向けた。そこには肩をわなわなと震わせ、こめかみに青筋を立て、如何にも怒り心頭といった然の彼女がいた。


「い、いや!?でも船長はを裏切るような事は」
「羨ましい」
「は?」
「私も女の子達とお近づきになりたい!」
「そっち!?」
「それ以外に何かあって?」


ベポとシャチの同時に入ったツッコミに、心底分からないといった顔をしたに、シャチは唖然として彼女を見た。


「普通、女の方に嫉妬するんじゃないか?普通なら」
「何言ってるの、理由がないじゃない」
「いやあるだろ普通なら」
「ローは必ず私の元に帰って来るのに、何を嫉妬すればいいの?」
「………」
「…ケホッ。…あら、叫び疲れたかしら。寝るわ」


ゆっくりと立ち上がったは、そのゆっくりな動作のままノロノロと食堂を去っていった。
残された一人と一匹は、しばらく自信に満ちた先ほどのの言葉に気圧されていたが、徐々に平常心に戻ったシャチが口を開く。


「本妻の余裕ってやつか…?」
「すごいなみたいな雌グマいないかな」
「あんなのが人だろうが吸血鬼だろうがクマだろうが何人もいたらかなわねぇよ…」



待つは女の専売特許


目次