海賊の航海に戦闘は付き物である。相手が海軍にしろ同業者にしろ、ジョリーロジャーを掲げている限り素通りというわけにはいかない。逃げる、応戦する、はたまた仕掛けるといういずれの選択肢も、一切の戦闘なしに出来るものではないからだ。

そしてハートの海賊団の紅一点、は、戦闘において引くという事を知らない。
武器を持たず己の身体一つで戦いに挑む彼女のそれはまさに、猪突猛進という言葉を体現したかの様な戦いぶりである。
この度行われた同業者との戦闘を、船長の指示を待たず単身で乗り込み終えてのけ、船へ戻ったは、敵船に物色に入ろうと準備する船員をかき分け、治療を受けるため船医でもある船長のローを訪ねた。


「ちょっと違和感があるから取ってくださる?」
「…何だ?」
「銃弾」


自分の血まみれの脇腹を指差しながら、平然と物騒なことを口した。随分と血で汚れた服は、返り血ではなく彼女自身の血であった。
ローは一瞬目を見開き、呆れてものも言えないといった風に頭を抱えた。
そして彼女の指差した腹部を思い切り掴んだ。


「ちょ、い…いた!痛いいたた痛いいいいいい!!」
「うるせえ黙れ」
「あしらいが冷たい!」
「うるせえ黙れ」
「冷血漢んんっ…つぅ!」


耐えきれないとばかりに、膝を付く前にようやくローは彼女の脇腹を掴んでいた手を離した。
その手を開きみれば、服についた乾きかけた血が薄っすら満遍なくついている。先ほど銃弾で打たれた傷跡を掴んだ後とは思えないものだった。
これも彼女の吸血鬼の力の一端、驚異的な治癒力の所以である。


「表面はもう治っているが、中はまだの様だな」
「普通に診療も出来ないのかしらね…!」
「弾を取り出すぞ。“ROOM”」


ローが左手を軽く掲げれば、その瞬間彼の左手から薄青のサークルが広がり、半球状にさらに広がったその膜がを包んだ。


「“スキャン”」


そう唱えると、掲げた左手をグッと握りしめた。そしてその握りしめた拳をすぐに開けば、銃弾が数個彼の手からこぼれ落ちた。カンカンと幾つもの銃弾が床とぶつかる音が響き渡る。


「…なんだこの数は」
「あら、数も数えれなくなりまして?」
「誰が七つも銃弾がでると予想する…!」
「これくらいで私がどうこうされると思って?」


脇腹に手を当てつつも、ゆっくりと立ち上がったは、いかにも余裕綽々といったふうに、縁然とそれでいて皮肉を交えローに微笑んでみせた。


「貴方は私に自分を省みらないほど想われていることを、誇りに思うべきよ」


胸を張ってふんぞりかえり、ローを見上げながら高らかに言い放った。


「ならお前は不死身の体だと分かっていても、自らを省みない事を快く思わない主を持ったことを、誇りに思え」


右手に持っていた長刀の柄で、の頭を軽く小突き、ため息交じりにそう言った。


「兎に角、まだ完治してねえ。部屋で休んでろ」
「休むほどの怪我ではな…」
「分解されて手術されてぇなら、話は別だが」
「…ありがたく休ませていただくわ」
「一日は絶対安静にしてろ。出来ないなら麻酔なしで縫合してやる」
「それはご親切にどうも…」
「部屋まで連れていってやろうか?」
「結構よ。敵船物色、どうするかを貴方は指示した方が良いのではなくて?」


がビシッと音がなりそうな勢いで指差した先には、船に乗り込む準備が整い、後は船長の指示を待つだけの、船員たちが二人をチラチラと伺っている。
ローは渋々といったふうに、に何度か振り返りつつも、彼らの元へと足を進めた。


「分かりやすい人…。ううん、分かりにくい、のかしら?」


私を人間扱いするなんてローくらいね。と、その場にいる誰にも聞こえない様な小さな声で呟き、は自室へと向かった。




慰める言葉に気がついて




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