船員と邸の使用人によって船に運び込まれる黄金の数々を、船着場に無造作に放置されていた木箱に座りながら、ローはみるともなしにそれを見上げていた。
順調に作業が進む中、ゆっくりとした足取りで彼に近づく気配を感じ、その方向をローはギロリと睨みつけた。


「何の用だ」
「……っ!」


ローの冷たい声色と眼差しに、ピタリと足を止めた少女は身を縮こませた。
海賊に対する反応としては間違ったものではない。しかし、それならば近づかなければいい話である。ローは苛立たし気に少女を見あげた。
少女は怯えと戸惑いの色が見え隠れする面持ちで、恐る恐る声をだした。


「ホントに、全然違います…ね…」
「は?」
「あの人と入れ替わっていた時と、です。そんな風に、怖い顔で見られたこと…なかったから…」
「あぁ…」


少女の態度に納得がいったと同時にローは彼女からふいと顔を反らせた。


「用と言うほどでは、ないのですが…。あの…、私達にとって、エルドラドとは、…清浄すぎる上に、作物の良く育つこの島のことだと、言い伝えられています。黄金には、執着していません。だから…全部持って行って下さっても、構わないのに…」
「いや、入りきらねぇからな。それに、あの趣味の悪い像はいらねぇ」

「それと、貴女達のいざってときに、あれはないと困るでしょうから」


不意に現れたに二人が視線を移せば、は艶然と微笑んで見せた。
先ほどまで作業を手伝っていたからか、普段着飾る事をしないには珍しく黄金でできた装飾品を幾つか身につけていた。
しかしその完成した一級品である装飾品の数々も、彼女に身につけられるとただの引き立て役と化している。
そんな身なりのなか、肩口から見え隠れする肩に巻かれた包帯の白さが少し痛々しさを醸し出している。


「本当に困ったときに、使いなさい。…あら、私お邪魔だったかしら」
「皮肉にしか聞こえねぇな」
「別に二人きりになって話す事が許せない様な狭量じゃなくてよ?」


そう言いつつも、自分の言葉を振り返る様に顎に手を当て、視線を上向かせ考える仕草を見せるのそれは、ローが求めている言葉を探るときの仕草だ。
その言葉を待つのは、ただ相手の行為に甘えるだけの様ではあるが、彼女なりの見えやすい愛情表現の邪魔をせず、ローはただの言葉を待つ。


「でもそうね、何の話をしていたのかしら?」


会話に入れろ。そう取れる言葉でありながら、秘密だと言われれば直ぐに去る事ができる。何方にも転べる言葉を選んだにローは苦笑しつつ、彼女の問いに答えた。


「本題は黄金の話だが…。お前とあいつで、おれは随分態度が違うらしい」
「え…っ、あの…その…」
「まあ。確かに違ったわよ。彼女と入れ替わっているときは、貴方冷たかったもの」
「………悪かったよ」
「ですって。許してやってくれる?」
「え、わ、私…!?」
「今のはに言った…、って分かってやってるだろ」
「うふふふ」


小首を傾げ態とらしくは笑い声を小さく立てる。
呆れた様にため息を吐くローには見向きもせず、少女に近づくと彼女の左手をとり、のいくつか身に着けている装飾品の一つである、腕に嵌るピンクの小さな飾りが付いたブレスレットを、丁寧に少女の腕へと嵌め、ブレスレットと少女の手首にそっと手を添えた。


「これ…は……」
「やっぱり。貴女の方が似合うわ」
「結局そういうオチになるのかよ…」
「どういうオチなのかしら。後で詳しく聞かせてもらうおかしら」
「たいして面白い話でもねぇよ」
「あら貴方の基準は聞いていないわ。面白いかどうかは私が決めましてよ」
「あーそうかよ」


二人の軽口にしては少々棘のあるやり取りを恐る恐る交互に見つめていた少女だったが、途端にフッと小さく吹き込むとと、堪えきれなくなったとばかりにクスクスと肩を揺らしながら微笑んだ。


「そんなに面白い話をしたかしら?」
「い、いえ…っ。フフ…っ、私、ホントに浅はかだったって、よくわかりました。記憶がなくなったって、私みたいに、なるわけ、ありませんね…。私気づいたんです。島から出れない事より、ただ、変身願望が、あっただけかもしれない。見た目しか、変わってなかったなら、まるで意味がない」
「………」
「貴女の言う通り、今いる場所で、精一杯頑張ってみます」


少女が吹っ切れた様に屈託のない笑顔を浮かべたと同時に、船から荷物が運び終わった事を、船員が潜水艇から叫びロー達に伝えた。


「行くぞ」
「ええ」


ローが船へと足を向ければ、も少女から手を離し彼の後を続く。しかしはピタリと足を止めた少女に振り返り、最後に一つだけ問うた。


「聞いていなかったわ。お嬢さん、貴女の名前は?」
「あ…私の名前は……」


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