他二人が船に戻ってきたと、ローが報告を受けたのは、が邸に向かってからたった二時間程度経過した頃だった。
報告した船員の様子が何処か余所余所しいことに疑問を覚えつつ、彼等が居るという甲板へと足を向ける。その際にすれ違う船員達がやはり何処か余所余所しく、そして何処か心配の面持ちでローをチラリを見やる。
「てめぇら何のつもりだ…」
地を這うような低い不機嫌なローの声に、皆一様にビクリと肩を揺らすとさっとローから目を離した。
船員の反応から察するに、帰ってきたが何かを企み、全員に釘をさした、という大凡の検討がついたローは苛立たし気に舌打ちをすると甲板への道を急いだ。
晴れた空の下、雲一つない空からは心地よい日差しがさしている。
そんな陽気とは裏腹に、甲板に降り立つ空気は張り詰めた重いものだった。
クラヴァットと後ろに控えると少女は、両者とも無表情にただローを見つめ、クラヴァットも相変わらずの無表情でローを見やる。
ローは精神は戻ったのかとを伺ったが、ただ無表情に彼を見つめるだけで判別がつかず、少女に対しても同様だった。
「何のつもりだ」
「ゲームだ、と様は仰られました」
「は…」
「様の精神は、今どちらの身体にあると、貴方は思われますか?」
「………また妙な事を企みやがって」
飽きれたとばかりにため息を吐いたローは、交互に数秒ずつ彼女等を見やると、迷う事なく少女の方へと歩み寄った。
「本当は、お前が自分の身体に戻りたくないんじゃねぇのか?」
「………お早い決断で」
「もう間違えねぇ“ROOM”」
能力を展開させたローが右手を掲げシャンブルズと呟けば、彼女等はハッと目を見開き、各々自分の身体をマジマジと見つめた。
「クラヴァット以外に、こんな事、出来る人が…いるなんて…」
少女のか細い声で、その声に似つかわしい何処か自信のなさそうな言い方が、確かに彼女達が元の身体に戻った事を示していた。
は頬に手を当て、はぁと物憂気にため息を吐くと、ジトリと据わったローを見つめた。
「あーあまたこれで食生活が元通りよ」
「お前が戻りたくなかった理由はそれか」
「戻りたくないなんて言ってなくってよ。どちらかと言えば戻りたかったわよ?ちょっと好奇心が疼いただけ。貴方は何をもって私を私とみなしてるか、ってね」
「くだらねぇ」
「でも、そのくだらないゲームも、貴女には意味があったのではなくて?」
突然話を振られた少女はおどおどと視線を彷徨わせた。しかし、フワリと微笑みながら少女を見下ろすの柔らかな雰囲気に感化されたのか、落ち着きを取り戻しスッと頭を下げた。
「ありがとう、ございました」
「ふふ…」
頭を上げた少女は今度は隣にいるローをおずおずと見上げた。
「他人が築き上げたものを、小細工したって簡単に自分のものには出来ない…って、貴方のおかげでよくわかった」
「………」
「ご迷惑おかけしました」
ローにもぺこりと頭を下げた少女に、ローは何処からともなく取り出した彼女の心臓をずいと差し出した。
バッと驚いたように顔をあげた少女は、恐る恐る手を差し出しそれを受け取った。
「本来なら潰してやりてぇところだが…、おれも一つ分かったことがある。それに免じて返してやる」
「は、はい…」
「あら何が分かったのかしら?」
「おい、黄金は勝手にもらって行くぞ」
「ねぇ無視?」
「どうぞ持って行って下さい」
「、てめぇも準備しろ」
「私の話聞こえていらっしゃいまして!?」
船員達を招集しに船内へと向かうローと、文句を言いつつ足音を荒げながら彼に着いて行くを、少女はキョトンと目を丸くして見送った。