治療を施され気のついたクラヴァットを伴ったは、再び邸を訪れた。
この島に上陸して吸血鬼たるの身体が住民の許可を既に得て、唯一自由に行き来する出来る建物、つまり少女の精神が入った身体はここに帰るしかなかったはずだと、は踏んだ。その上この邸はあまりにも大きすぎるため隠れる場所は十二分にあった。
しかしは迷う事なく最上階を目指し、黄金のある部屋へと向かった。ひとつめの扉を開ければ、広間と所狭しと飾られた黄金の飾る部屋が、以前と寸分たがわず鎮座していた。
予想通りとばかりに早足に広間を横切り、もう一つの扉、黄金で作られた像が飾られる部屋の扉を開け放った。


「隠れんぼはお終いよ」
「!」


恐らくモデルとなった人物の等身大であろう像の足元に血の滴る肩を押さえ蹲りうなだれていた、身体はであり精神はこの邸の主の少女は、声自体は彼女の物であるの声に跳ね起きた。


「…い、いや、いやです」
「って言ってももう皆にばれてるし、船には乗せてもらえなくってよ?それにその身体、結構変な奴に狙われやすいのよ。あんまりお勧めしないわ。この島も、閉ざされた島ではなくなるのでしょう?」
「でも…、く、クラヴァット…!」


の背後に控えるクラヴァットに助けを求め、縋る様に少女は見つめたが、彼は黙ってただ首を振るだけだった。
落胆と絶望で顔を青くした少女だったが、キッと2人を睨むと立ち上がり目を紅に鈍く光らせた。


「あんまり力使い過ぎるとお腹が空くわよ」
「食べればいい話です」
「貴女人の生き血をすすった事はあって?」
「…?」
「それに抵抗を感じない?今空腹を満たすすべはそれしかなくってよ?」
「…!」


吸血鬼の主食が何かを思い出し、そして先日調理場にて起こした自らの失態を思い出した少女は、紅の瞳をハッと見開いた。


「奇異の目で見られた事は?恐怖に泣き叫びながら逃げ惑われた事は?」
「そ、それは…」
「まぁだから私は同性を口説くって手段に辿り着いて趣味になったんだけど…。勝手の分からない内気な貴女が、飢えを凌げるとは思えない」
「………」
「霧の所為で島を出る事が出来ない貴女は、島民に恐れられるだけの化け物になるだけ…って、理解できまして?」


少女はガクリと膝を落とし、項垂れた。そして観念したと俯いた頭を小さく頷かせた。


「そう、じゃあ返してもらうわ」
「はい…」
「まぁ…そうねぇ。閉ざされた島ではなくなると言ったわね。だったら私でなくていいじゃない」


項垂れる少女の側に膝をつき、肩をそっと抱き寄せながらの口から出たどこかずれた励ましの言葉に、二人は絶句したとばかりにを唖然と凝視した。
二人に向けられる強い視線にはキョトンと目を丸くする。


「あら?」
「え…い、以外です…貴女がそんな事言うなんて…」
「はい…」
「私は顔も知らない会う予定もない人に味方するほどお人好しじゃないもの」
「…………」
「何をどうするも貴女達次第よ。もし今思う事が出来たなら、今いる場所で、精一杯頑張るしかないのではなくて?」


が微笑みかければ、少女は自分の顔であるそれをジッと見つめ、少女もまた小さく微笑んだ。
クラヴァットと二人に歩み寄ると、跪き彼女らの腕を取った。


「宜しいですね?」
「………」
「まだ名残おしい?」
「理解してるんです。このままじゃ、私だって困るって。でも…」
「諦めがつかない…かしら。…あぁ、そうだった丁度いいわ。今会いに来たのは、貴女に提案しにきたのよ」


はニンマリといかにも何かを企んでいることを表した笑みを浮かべた。


「最後に一つゲームをしましょうか」


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