早朝、陽もまだ少し顔を見せ出した頃に、既にハートの海賊団の船員は活動を始め、島の奥地にへと向かう準備を着々と順調に進めていた。
ローにとってこの島に来て二度目の早朝の起床に、不可抗力に欠伸が何度も出てはそれを咬み殺す。
そろそろ探検班は上陸できる間際になり、そろりと現れたはローに恐る恐る歩み寄った。
「上陸、するの?なら、連れていって」
「自分を守る術は覚えているか?」
「…多分、大丈夫」
いかにも不安といった表情を隠しきれないは、言葉とは裏腹に何処をどう見ても大丈夫ではなさそうだ。
「信用ならねぇ」
「…してもらうために、行くの。一緒にいる時間が減ると、機会も減ってしまうわ。今の私を、受け入れてくれる、機会が…」
それは今のローへの返答ではなく、昨日の彼女の言葉への彼女なりの答えの様だった。
俯いたの表情はローには見る事が叶わなかったが、暫しじっと彼女を見つめた後、分かった、と短く同行を許す返事をする。
ぱっと顔を上げたが何かを言いかける前に、ローはもう一度口を開く。
「それに、少し話しておきたい事がある」
「…?えぇ、分かった」
不可解と喜びの織り混ざった微妙な表情をは一瞬浮かべたが、船員の上陸準備が整ったという声に、さっとローへと期待の眼差しを向けた。
「行くぞ」
「えぇ!」
*
人が踏み入らない奥地と言うだけはあり、無造作に生えた草木が行く手を邪魔をする。
真新しい草を踏みならした跡があるのは、昨日ハートの海賊団の誰かがしたものなのだろう事は聞かずとも把握出来た。
その跡を辿り、先頭を歩くローはの手を引き鬼哭で草を払いながら、辺りに警戒を広げながら足を進めていた。
「あの、話したい事って、…聞いていい?」
「あぁ…」
返事はしつつも、次の言葉をなかなか紡げず、降り立ってしまった沈黙に、が少し狼狽えたのが彼女の繋ぐ手からローへと伝わる。
後回しにできる話ではない。そう言い聞かせローは繋いだ手をグッと握りしめた。
「あの…」
「おれ達は高みを目指して航海している途中だ。いつまでもお前がその状態だからと言って、この島に長期間留まる訳にはいかねぇ」
「え…えぇ、そうね。私も、旅をしてみたいから…」
「だが、高みを目指しているからこそ、今の状態のお前を、連れますことは出来ねぇ」
「…!私を、置いて行くって、いうの…?」
「この島が嫌だってなら、次の島か…、お前が安全に暮らせる場所を探す」
「そんな事望んでない!私は…!」
「なら!」
「…っ!」
「それなら…!記憶を戻す事に積極的になれ。今のお前は連れていけねぇ」
「そんな…」
掠れた声で呟いたは項垂れ、ローの手を掴む力を緩めると、するりと手は解かれた。
進める足さえも止めてしまった彼女を放置する訳にもいかず、ローも立ち止まり彼女に向き合いながら、船員達は先に進む様に促した。
すると後からやって来たベポもローのそばで立ち止まると、ローの肩を軽く叩きながら船員達が進む先を指差した。
「船長、もうすぐそこなんだけど。とりあえずそこまで行こうよ。あっちの方が開けてるし」
「…」
「………」
促すが動こうとしないに痺れを切らし、無理矢理にでも連れて行こうとローが彼女の腕を取ろうとしたとき、進む予定だった方向から彼を呼ぶ声が聞こえた。
「船長船長!見てくれよこれ!!」
そう叫びながらガシャガシャという音と共に現れたシャチへと視線を移せば、彼の頭上より高く掲げた手に、黄金で出来ているであろう眩い光りを反射する王冠があった。
「…あるじゃねぇか、黄金。エルドラド」
「ええー?昨日来た時はそんな大きい王冠なかったって!」
「いやいやこんなもんじゃねぇって!まだ向こうにありますよ!行きましょう船長!」
シャチは早く早く!と叫びながらまたもと来た道を走り去って行き、ベポもそんなバカなと彼の後を追う。
自分も追うかと、もう一度を引き連れるために彼女を見やれば、その表情にローはピタリと動きをとめる。
は目を見開き身体をわななかせ、困惑とも絶望ともつかない悲壮な面持ちで彼らが去った方向を凝視していた。
「何で…」
「何でも何もあるわけがないでしょう?当然よ当然。あれはもう頂いたもの。誘導に使おうがそれは私の勝手」
「…!」
今回もまた全くローに気配を感じさせる事なく唐突に現れた少女とその執事は、生い茂る草木を物ともせずローとへと歩み寄る。
すかさずを自分の背後に押しやりローが二人を睨みつければ、少女は縁然と微笑んだ。
「まぁ、それなりに楽しかったけれどここまでにしておきましょう」