少女がカチャリと無機質な音を立て取り度したのは、華奢な躯体に似つかわしくない一丁の銃だった。
両手で構えたそれは照準をに合わせられている。ローはを背に庇い険しい顔つきで少女の指に注意を向けた。
「あら、こんな事しても私の心臓を盾にしないなんて、情でも移りまして?」
「………」
「まぁ面白くない」
否定も肯定もせずただ少女から警戒の色の濃い眼差しを反らさないローに、少女は言葉通りに面白くなさげにほんの少し頬を膨らましむくれてみせる。
「一応言っておくけれど、込められているのは鉛弾じゃなくて銀で出来た銃弾よ」
「てめぇにそれが撃てるか?」
「…そうね」
少女が呟いたその瞬間、空気を裂くような乾いた破裂音が響き渡り、硝煙の香りと濃い鉄の香りが充満する。
警戒していたにも関わらず、少女は寸分たがわずローに掠めることもせず、背後に控えるの完全に隠れ切っていなかった肩を撃ってみせたのだ。
「撃てるわ。案外簡単に」
「…っぅ!」
が肩を抑え蹲ったと同時にローは能力を展開させ、一瞬のうちに少女に詰め寄り、胸ぐらを掴む様にして少女との距離をさらに詰めた。
「何で撃った!」
「そんなに驚くこ………、貴方まさか気づいて…!」
「お嬢様!」
「な…!?ロー後ろ!」
執事と少女の叫び声に言われるがままに振り返れば、翼を生やし目を紅に鈍く光らせ、吸血鬼である本来の姿を露わにしたが、猛スピードで羽ばたいてくるのがローの目に映った。
大幅に空いているわけではない距離は一瞬にしてなくなり、は羽ばたいた勢いを殺さず執事を蹴り飛ばし木の幹へと叩きつけた。
「いいかげんになさいな!」
少女はローの手を振り払いもう一度銃をに向けたが、引き金を引く前に一瞬にして少女に詰め寄ったによって、拳を鳩尾に打ち付けられ地面にへと落ちるように突っ伏した。
「…!」
焦りの滲み出る声を発し、ローが名前を呼び手を差しのべたのは、暴挙に走った彼船のクルーではなく、地面に蹲る少女の方だった。
「…あ…………」
ゆっくりとローが少女を抱き起こすその光景に、一瞬だけ寂しそうな眼差しを向けたは、またしても皮膜の様な羽を羽ばたかせ、撃たれた肩を庇いながら高く高く飛び上がった。
「船長なにし…ってなんだこりゃ!?」
異変に気づいた船員達が各々手に黄金を持ち現れたと同時に、ローは直様彼らに命令を下した。
「誰かを追いかけろ!」
「え!?えぇ!?」
訳がわからないながらも、船長の命令は絶対と身体に染み付いた彼らは、足の覚えのある者が筆頭に飛びたったを追いかけ走り去った。
「を自分以外に任せるって何事ですか。というか何ですかこの状況」
ローが抱える少女と、木にもたれかかるようにして倒れる執事を交互に視線を移し、本当に訳が分からないと顔をしかめたペンギンは、ほんの少し苛立ちの見え隠れする声色でローに問いかけた。
ローの腕の中で生きも絶え絶えといった少女も、訝しげにローをジッと見つめている。
「お前が、か?」
「いやだから同じ名前なんですよね?」
「そうじゃねぇ。なんだろ」
「船長…!?」
口に出すほどにローの心中で、目の前の少女は見た目はともかくその中身はローのよく知るであることが確信に変わって行く。
ローは答えを促すように、ただ確信を宿す力強い瞳で少女をジッと見つめた。
「だから、始めから言ってるじゃない。私はだって」
そして少女は困ったように微笑んだ。