夜の帳が降り月も天高く煌々と輝き出したころ、ローは一人気を紛らす為にアルコールでも摂取しようと、食堂へと向かった。
食堂に近づくにつれ、ガヤガヤと騒がしい船員たちの声が彼の耳に入る。妙にテンションの高い彼らの声から察するに、どうやら何か気持ちがいい方向に高ぶる何かがあったらしい事が伺えた。
食堂へと続く扉を開けば中にいた全員が一斉にローに視線を移した。
「船長!」
「随分と楽しんでんじゃねぇか。何かあったか?」
「船長これ!これ見てくださいよ!!」
そう言ってシャチが持ち上げ頭より高く掲げて見せたのは、黄金に輝くそら豆程の小さな金の欠片だった。
「シャチが見つけた見たいに言うなよ!おれが見つけたんだキャプテン!」
そう言ってシャチから金塊を奪い取ったベポは早足にローの元へとやってくると、それを彼に手渡した。
「おれ情報収集には役に立たないから、島の奥地にいってエルドラドの探索してたんだ。そしたらでっかい木の幹にそれがあったんだ!」
間違いなくエルドラドはある!と騒ぎ立て宴会状態の船員達にローは苦笑しつつ、その金塊を角度を変えながら見つめる。
ガス灯の光を反射させ輝くそれは、手触りや重さなどの特徴からも、本物で間違いなさそうだとローは呟く。
「だが…、木の幹にあったのはこれ一つか?」
「え?うん一つだった」
「…不自然じゃねえか?」
騒ぎ立てていた船員達もローの言葉に我に返ったのか、ピタリと動きをとめ口々に、確かに…そうかも…?と疑念の声を漏らしだす。
「罠か…?」
「でもこれを見といて引き下がれってのは無理っすよ!おれがエルドラドを見つけてやるぜ!!」
「おうシャチ頑張れよ!」
「ペンギンお前他人事かよ!?」
今度は罠だろうが立ち向かってやると息巻きだした彼らは、明日はどうするか、戦闘準備もしておいた方がいいか、とまたしても騒ぎ立てつつ作戦会議を立てだした。
相変わらずな奴らだと独りごちたローは彼らを眺めながら、これだけエルドラドに期待を寄せる彼らがいるのに、やはりの理由のはっきりしない私情だけでこの島から離れるわけにはいかない、と考え至る。そしてここに来てようやくカウンターの席に腰をおろした。
それを見計らった様にローの隣に移動したペンギンは神妙な面持ちでローに問いかけた。
「ところで船長、の様子は…?」
「…相変わらずだ」
「そうですか…」
「はこの島を出たいそうだが、何か知っている風なあの邸の女は戻したければ島を出るなと言いやがる」
「……な、何と言うか、面倒な状況ですね」
「全くだ」
「…船長がいうなら、おれたちは島をでても何の問題もないですよ」
ペンギンの言葉に、ローは彼の帽子を目深にかぶり表情の分かりづらい顔を非難の目で睨みつける。
「バカな事は真剣な顔で言うもんじゃねぇ」
「ハハ…案外本気なんですけどね…。まぁ、宝を目前にして引き下がる方が、以前のなら怒ったはずですしね」
「分かってんじゃねぇか」
「一応、ですよ。いつもの様に選択肢を出してくれたり、いっそ強行する様なは、今はいないんですから…」
語尾が少しずつ小さくなると同時に、ペンギンの口元も何処かさみしげな笑みにへと変わっていった。
の記憶がなくなった事に戸惑いを覚えているのは、決して自分だけではなかったのだと、ローはハタと気づく。
ずっとローとは共に行動していたわけではない。彼らも今のと話し、そして違和感を感じざるを得なかったのだろう。
「明日は船長も奥地の黄金探しに行きましょうよ!は見張りのやつらと船に一緒にいりゃあ大丈夫ですって!ね!」
明日は船長も同行するぞ!と作戦会議の輪の中に戻って行ったペンギンの背を見るともなしに見ながら、ローの頭にペンギンの言葉が反芻する。
ペンギンはもう分かっているのだ。ローが今のをと思えていない事を。共にいる事にストレスを感じている事を。
船員に妙な気を使わせてしまうとはと、ローは額を押さえうな垂れた。