爽やかな朝の風が微かに入る寝室、柔らかく寝心地の良い布団に包まれながらの、心地よい睡眠を終えた後は、熱いお湯を張ったお風呂に入る。
ゆっくり、たっぷりとお湯を堪能し、体を清めた次は、新鮮な野菜や果物がメインの朝食を頂く。
朝食を食べ終えれば朝の散歩へと出かける。
地面を軽やかにステップを踏むかのように歩き出し、帽子越しに陽の光を浴びて一日の始まりを実感する。

そんな素晴らしき一日の始まり。

「そういう朝を迎えてみたいものだわ」
「一から十まで無い物ねだりだな」

脱力したかのように机に突っ伏したの長い独り言に、彼女の隣に座り、専門書に目を向けていたローは、本を閉じてから彼女の独り言にため息交じりの相槌を入れた。

「海上には当然潮風しか吹かねえし、風呂に使える水の量には限りがある。今回の航海はもう随分とたつから、新鮮な野菜も果物もねぇ。地面なんて以ての外だ」
「わざわざ嫌味ったらしい分かり切った説明をどうもありがと!」

机に突っ伏していた顔をガバッと勢いよくあげ、握った拳で机をドンッと叩きながらは隣に座るローを睨みつけ吐き捨てた。
しかしいきり立つと目を合わせながらも、ローは不敵な笑みを崩さず彼女を見据える。
余裕を見せるローの普段通りのペースに、更に気を立たせれば彼の思惑通りと理解しているは、目を伏せ努めて心を落ち着かせる。
一つため息を落とした後、もう一度ローの顔をじっと見据えた。

「ないものだからこそ、手が届きそうで届かないからこそ欲しがるのよ。分かるでしょう?」
「貪欲でこそ海賊、か」
「貪欲というには欲しいものはささやかだと思うけど」
「ならささやかな願いを一つだけ叶えてやる」
「あら?」
「この船で一番寝心地の良いベッド。お前の思う柔らかい布団かどうかは、別としてな」
「それはつまり、」
「久々に一緒に寝るか?」

ローの言葉に一瞬目を見開いたものの、すぐにはフワリと柔らかくそして可憐に、彼に微笑みかけ頷いた。

「それでも指一本触れるのではなくてよ?」
「………」


焦がれるものはすぐそこに




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