飛ばされた先が潜水艇のある方向だったため、は羽を広げることなく甲板へと着地した。
それと同時にシャチとベポも幽霊船から甲板へと落とされ、ベチャッとでも効果音が付きそうな体全体を甲板に付けるようにして着地した。
しかしすぐに顔を上げ幽霊船を驚愕の色の濃い表情で見上げた。


「何だ今の!?」
「あの子、人間じゃないわね」
「い、いやいや一体何があったんだ?」


訳がわからない、と残されていた船員たちが説明を催促する。
誰よりも我先にと説明をかってでたシャチは、幽霊船の甲板で会った少女の話と不可思議な風についてを、如何に自分が恐怖したかを織り交ぜつつ説明した。


「なるほど、それで人間じゃねぇとなると何になるんだよ」
「多分だけれど、幽霊とか思念体とか、その辺りだと思うわ」
「マジかよ…。なんつーか、と一緒にいるとオカルトなこと多いよな…」
「あら、知らないの?オカルトはオカルトを呼び寄せるのよ?」
「知るか!つーかいっそ知りたくなかった!!」
「それはいいとして、だからあの子は名前を忘れるほどの年月を船長を待って漂う事になった、というか漂う事が出来たのね」
「じゃああの子の船長は…」
「恐らくもう、この世の人ではないでしょう」


という人ならざる存在が、目の前の船が本物の幽霊を乗せ漂う幽霊船である事を裏付けていく。
甲板には一層冷たい空気が充満し、早くこの場から去ってしまいたいと、大半の者が一様にそう思ったが、この潜水艇の船長がその幽霊船に乗船し不在のため動くことは出来ない。


「そういや、なんで船長だけ飛ばされなかったんだ…?」
「あの風を起こしたのがあの子で、人間違いしてるなら当然でしょう。気に入らないわね!ローを取り戻すわよ!」
「なんだ珍しい。嫉妬か?」
「人間じゃないイコール吸血もできないイコール可愛がる対象じゃない!その上害をなすってことであの子は敵!」


常人には理解できない基準を捲し立てたは幽霊船の先にいるであろう少女を睨みつけ、皮膜の羽を力強く羽撃かせた。







たちが潜水艇に投げ出された頃、幽霊船の甲板では取り残されたローが少女に剥き出しの鬼哭の刃を向けていた。
凶器を向けられた彼女はただ不思議そうにローを見つめた。


「せんちょ…?」
「あいつ等に何をした」
「わたし達の邪魔をするんだもん」


話が噛み合わない少女の答えに、話を聞く気が削がれてしまったローは、能力展開の呪文を唱えると同時に彼女の首めがけ、刀を横一字に振り切った。
目を見開いた彼女の頭部は血を流すことなく宙を舞う。
が助けたがった少女はを無下にし、ローはに害をなした彼女を助ける気はさらさらない。この船にもう用はないとローが彼女から背を向けた。


「なんでこんな事するの…!?」


しかし踵を返した先に少女がローを困惑した顔で見上げていた。
その上ローを見上げる彼女の頭部は、首からきっちりと繋がっている状態だ。
能力者か、とローの頭によぎったが、余りに多すぎる不可思議な現象と、その不可思議な現象を引き寄せやすい彼の庇護対象を思い出し、彼女が人ならざる者であることをローは悟った。


「本物ならしねぇんだろうよ。おれはお前の船長じゃねぇ」
「でも…だって…!」
「何ならもっと切り刻んでやろうか?」
「…!違う…んだ…本当に……」


ようやく自分の目の前にいる男が、少女の求めた人物ではないと認めた彼女は、崩れ落ちるように甲板に膝を落とした。そしてまた残された現実をつきつけられ、ただ咽び泣く。
ローの目の前で繰り広げられる人ならざる彼女のその姿は、一つの可能性を彼に突きつける。

自分も急にいなくなってしまえば数年後のもこうなるだろうか?

慟哭する彼女とを重ねてしまったローは思わず少女に問いかけた。


「未練はなんだ」
「え…?」
「船を燃やしてやろうか?そうすりゃ成仏てきるかもしれねぇ」
「そ、それはいや!」
「なら、思い当たる未練は?」


少しだけ俯き考える仕草をした少女だが、ハッとした表情を見せると、真っ直ぐローを見据えた。


「名前…!わたしの名前を探して!」







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