本日ハートの海賊団が上陸した島は、今まで通った島々と何ら変わりない特徴の少ない島だった。
平穏に見えるもののそこは偉大なる航路。海賊らしき集団もいれば海軍の駐屯所もある。
そんなよくある島の中心街を、ローは一人あてもなく散策していた。
特に目を引かれるものもなく、船に戻るかまだ陽も高いが酒場に繰り出すかと考えていた最中だった。交差点を曲がったとたん、よく知った顔とばったりと出くわした。
驚いたように彼女、はほんの少し目を見開いたが、すぐにぱっとローに微笑んでみせた。
だがローは微笑む彼女とは打って変わって失笑し、ある一点を凝視しピタリと動きを止めてしまっている。
それもそのはず、ローの目線の先、の腕の中には、見ず知らずの女児が抱き上げられていたからだ。


「お前…ついに誘拐…」
「ついにって何よパパ」
「誰が誰のだ…!」
「パパなの?パパー」


女児に屈託のない笑顔を向けられ、自らを親と呼ばれローはたじろぐより他なかった。
それに加えの腕の中から手を伸ばされれば、どうするこも出来ず彼はただを睨んだ。


「パパ怖いわねー」
「ねー」
「それより…!いったい何処から連れてきやがった」
「人聞きの悪い事言わないで頂戴。色々あって預かっただけでしてよ」
「海賊が子供をそう簡単に預かるな。…いや、普通預けるか?」
「でも実際預かっているのだもの。夕方までよ」


黙って二人の様子をの腕の中で見ていた少女だったが、混ざることのできない大人達の会話に痺れを切らし、手足をバタつかせ地面に降り立つと、の手を両手で引き注意を向かせた。


「ママー公園!」
「あぁ、そうね。公園に行きましょう。パパも行く?」
「お前の親父になった覚えはねぇ」
「パパってば短気ねー」
「たんきー!」
「………」


すっかりに懐いている少女と、それに満更でもないどころか、とろけきった笑顔を浮かべるに、困惑とも焦りとも苛立ちともつかない、複雑な心境がローに渦巻いた。







結局引っ張られる形でローは二人と公園へ同行した。
少女は迷うことなくブランコへと一直線に駆け寄り腰掛けると、に背を押すようにせがんだ。それには慣れた様子で応える。
どことなく面差しが似ている気がしなくもない彼女達は、何も知らない人が見たならば、きっと本当の親子に見えるだろう。
そんな二人の様子を、近くにあった木に体を寄りかからせながら、ただぼんやりとローは見つめていた。
いつかの未来、きっと自分たちの子供が出来れば日常的にこうなるのだろうか?そんな考えがローの脳裏に過る。
は自他共に認める子供好きであり、実際昔のローが彼女に大切にしてもらった事も彼の記憶にこびりついている。
執着心の薄い彼女に、永劫守るべき存在を作るという事は、つまり今の様に自分に感心を向けることなくす事ではないか?
ローが一抹の不安を覚えていたとき、が少女から離れローの隣へと移動し、まだブランコに乗り満面の笑顔を見せる少女を微笑まし気に見守った。


「あなたはいいの?」
「おれはいい」
「いつかの予行演習になるわよ?」


確かにローのへの告白は子供を産んでほしいという、世間一般からすると決して褒められたものではないものだった。
だからとはいえ、彼がそこに込めた意味は、彼女との子供が欲しいというよりも、自分に繋ぎ留めたいという意味が大きい。
何よりローは子供が好きなわけではない。
それを察しているであろうも、ローの微妙な反応にただ苦笑するだけだった。


は、…何で子供が好きなんだ?」
「まあ妙な質問ねぇ。……何で、か…。庇護欲をかき立てられるからじゃないかしら。本来守られるより守る方が性に合ってるもの」
「自分より弱い立場だから、か」
「嫌な言い方ね」


の答えと、その後すぐ少女に呼ばれローに向けられた彼女の背中が、やはり自分に関心がなくなるのではという不安を彼に煽り立てた。







夕方になりが少女を連れ帰ったのは孤児院だった。
この海賊が蔓延る時代にそれは珍しいことではない。ただ、そんな境遇でも、少女は屈託なく笑うのか。とローは内心ひとりごちた。
門の中へと入る前に、少女ははっと思い出したかのように、左手でローの左手を取り、右手での右手を取ると、それを繋がせて小さな両手でそれをきゅっと握りしめた。


「ありがとう。ママとパパは仲良くしてね」


目を見開き少女を見つめた二人を他所に、そう言い残した彼女は何度か振り返りながら施設の中へと戻っていった。


「なかなか、意味深長な言葉だったわね」
「…あぁ」


少女の発言に微妙にいたたまれない様な空気のまま、どちらともなく歩きだした彼らの手は繋がれたままだった。


「あの子の母親に私が似ていたんですって。だから今日だけ一緒に居て欲しいって。……やっぱり子供はいいわね。私達の子もあんな可愛くて素直な良いこがいいわぁ。でも私たちのどちらに似ても素直とは程遠いかしら。性格は似ないでほしいわねぇ…。でもきっと、どんな子でも間違いなく可愛いわ」
「そうだな」
「…今何と言いまして?」
「賛同されて驚くんじゃねぇよ」


驚愕したとばかりに目を見開くに、思わずローは呆れたと大きく溜息を吐いた。


「繋ぎ留めるもの、じゃねぇ。繋がれるもの。少しそう思えただけだ」


少女に繋がれた手を見てローは小さく呟いた。
そんな彼には慈愛の色の濃い眼差しを向け、嬉しさを隠しきれない様子でローの腕に軽く身を寄せた。


窮年累世








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リクエスト内容:幼児を面倒見る夢主とそれが複雑なロー
ゆんゆんさまリクエストありがとうございました!