妙に瞼が重い。そして身体全体もどことなく重い。そんな普段と比べ妙に寝覚めの悪い違和感のある朝をは迎えた。
前日に何か不調を引きずる様な事をしただろうかと、昨夜に記憶を巡らせながら上体を起こした彼女だったが、そこで更なる違和感を覚える。
瞳に飛び込む景色がほんの少しだが違っている。物の位置が変わったわけではない。自分の位置に違和感がある。つまるところ目線が高かった。
ベッドを変えた覚えはない。マットを増やした覚えもない。一体どういうことだと額に手を当てた瞬間だった。
垣間見えた動かした手の甲に、決定的な日常との違いが描かれていた。


「刺青…」


そして発した聞き慣れたテノールの声が確証となった。







「いったい何のつもりのよロー!」


女性言葉で自分の名前を叫びながらいきり立つその姿に、騒がしかった食堂は一瞬にして静まり返った。


「その声でその口調はやめやがれ」


そして普段からは想像もできない荒い口調のに今度は青ざめる。
先程まで彼らが何の疑問も持たずだと認識して接していた者が、実はこの船の船長だったなどと、出来るならばこの場にいる渦中の二人以外は信じたくはなかった。羨望の意味を込めて船員達は普段と変わらず艶然と微笑むを見つめた。


「い、いや、何の違和感もなかったぜ…?な、…?え、あ、いや、船長…?」
「当然よ。ローがおかしくなったのではなくて?」
「はは、ほら…」


普段通りの彼女の発言に安心したように皆が息をついたのもつかの間だった。
一人納得がいかないと表情に全面に表し、凶悪な顔が更に凄みが増している見た目はこの船の船長が早足に、見た目はこの船の紅一点に近づくと、側にある机をバンと掌で打ち付けた。


「馬鹿なこと言わないで頂戴」
「だからその話し方やめろっつってんだろ」
「そっくりそのまま返すわよ!」
「や、やっぱり変わ…!?」


と誰かが困惑気味に小さく叫び終わる直前に、容姿はである方が、細い肩を震わせ、それに連動し銀の髪を小さく揺らし、口に指を当て俯いた。
漏れ聞こえる声は明らかに笑っているそれだ。


「……………ロー」
「ふ…、笑うなっ方が無理だ…くく…」
「…って事は、えー…、入れ替わってるって事で良いんですね…?全く何だってそんな事…」
「色々あるが、お前らは十分楽しませてくれる反応するだろうと思ってな」
「んな悪趣味な…!なぁだっていい迷惑だろ?」


確認するようにそう問われたに、不意に内へと膨れ上がったのは、以外にも悪戯心だった。
ローは食事を囲む彼らの中で、誰に疑問を持たれることなく、を演じきっていたと、自らは見ていなくとも、彼らの反応から一目瞭然だ。


「さあな」
「…へ?」
…?」
「迷惑か…、本当にそうなら、そりゃあ迷惑だろうな」
「え…!?」
「お前らは何を信じる?」


ならば自分もローになりきることが出来る。
不敵な笑みを浮かべ、が思うローがしそうな発言を述べれば、慌てふためき目を白黒させる船員達が、の演技力を証明していた。
彼らの反応に満足したと同時に込み上げてくる衝動をこらえ切れず、はテノールの声で、圧し殺すこともなく笑い出した。


「って結局かよ!」
「質悪りぃわ!」

「誰に口聞いてやがる」


笑いをピタリと止めたとローが全く同時に同じ言葉を放つと船員達を睨めつけた。
まるでローが二人いるような錯覚を覚える状況に、場の空気は一気に凍り付いた。


「もう訳分かんねぇ…!」
「あぁ可笑しい…!でも、これは確かに面白かったけれど、流石にもう戻りたいわ。…って、私がやらないといけないのよね。えっと…、“ROOM"」


見様見真似には死の文字が刻まれた手をかざし、ローが能力発動する際の言葉を唱える。
掌から広がる薄い膜に、彼女は内心ホッとしたがそれも束の間。広がると見せたそれはふっと霧散してしまう。
ただ掲げるだけになった手を見つめは目を瞬かせる。
しかし気を取り直しもう一度言葉を唱えるが、結果は先程と変わりはなかった。


「何これ」
「そう簡単にはいかねぇよ」
「何他人事みたいに。戻りたくないの?」
「そのうち戻れるだろ」
「そんな適当な…!私は嫌よ!」
「それより」
「無視!?」


の常の仕草を真似るようにして、悠然とローは立ち上がる。
そして目の前のを見上げると艶然と微笑んだ。


「今やれることをやっとかねぇと勿体無いだろ?」
「は…?」


そしてふっと中身の自身を彷彿とさせる不敵な笑みに一変させたローは、瞳を紅く染め上げ、自分の身体の首筋に飛びつくと、その勢いのまま肌に牙を喰いこませた。







「散々だったわ…」


さんざん翻弄された後に、ようやく二人分が入れる程度のサークルを作ることに成功したは早々に自分の体に戻った。
精神のシャンブルズに手間取らずに済んだことに安堵しつつ、攻防の最中に移動させられた船長室のソファに、グッタリと寝そべったは弱々しい声で呻いた。


「で、だ。普段与えているものを与えられた気分はどうだ?」
「…あぁ、あなたの言っていた色々ってそれ?」


とんでもない事を思いついいたものだと、は内心悪態をつきつつ、不敵な笑みがよく似合うローを睨みあげただ一言呟いた。


「あなたが一番よく知っているでしょう」


どこか気恥ずかしげに少しだけ頬を蒸気させたは、隠すようにソファへ突っ伏した。




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リクエスト内容:ローと夢主の中身入れ替わり
らじさまリクエストありがとうございました!